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阿吽の喧嘩。

矛盾してる。だが、それでいい。

ダブン。
落ちた。水の中にだ。冷たくもなく、熱くもない。

どこから落ちてきたのか、彼はよく分からなかったが、陸はすぐそこにあったので安心した。

良かった。と思った時に

少し離れた所でまたダブン!と何かが水に入る音がした。落ちたのか、落とされたのか、よく分からなかった。

水面には何も見えなかったので、顔をつけて水中からその場所を見てみた。
幸いに、水はとてもよく澄んでいて、すぐにそれが人だと認識できた。左手に何やら重そうに、しかし大事そうに抱えている。右手と両脚で必死に上がろうともがいているが、左手のその得物が重いのだろう、どんどん沈んでいく。
その人と、彼は目が合った。
「助けてくれ」と言ってる。
聞こえはしないが、目が、そう言ってる。そう思った。
あっと言う間に豆粒になった。
まだもがいているが、左手に抱えたそれを離そうとはしない。
なぜだ。分からない。助かりたいならそれを捨てて浮かび上がればいいじゃないか。
そんなに大事か?命よりも?
分からない。
たぶん、水の底に消えていったあの人も、分かってなかったんじゃないか。

そう思った。


彼は、浮かんでいる。陸が見えているけれど、別に急いであがる必要もなさそうだ。
水の中で左手を抱きかかえるように動かしたが、水が通り抜けるだけだった。

「何もない。と言うべきか、いや、水はある。と表現できるのか。」とふと考えた。
こんな屁理屈こねているから駄目なんだ。あの人のように大事なものが見つかれば、そんな暇もないほど必死に生きていく事ができるのに。

空しい。

彼は、
ゆっくりと
陸とは反対側に泳ぎ始めた。